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東京地方裁判所 平成10年(ワ)13403号 判決 1998年9月22日

原告 ダイヤモンド信用保証株式会社

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 濱田広道

被告 横浜テナンツシステム株式会社

右代表者代表取締役 B

右訴訟代理人弁護士 福田晴政

主文

一  被告は、原告に対し、金三〇〇万円及び内金一〇〇万円に対する平成一〇年四月二六日から、内金二〇〇万円に対する平成一〇年五月二六日から、それぞれ支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

三  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

一  申立て

1  原告

主文と同旨

2  被告

請求棄却

二  事案の概要

1  本件は、抵当権者である原告が物上代位権を行使して差し押さえた賃料債権の支払を抵当不動産の賃借人である被告に対して求める事案である。

被告は、原告による差押えの前に、被告は、抵当不動産の所有者に対して有する債権を第三者から譲り受け、債務者である抵当不動産の所有者は確定日付ある証書でこれを承諾し、被告は、右譲受債権をもって本訴請求にかかる賃料債権と相殺したから、右相殺の効力を生じた限度で賃料支払義務はないと主張した。右被告の主張の当否が本件の争点である。

2  基本的事実関係(証拠の摘示のない事実は争いのない事実である。)

(一)  Cは、別紙物件目録<省略>の建物(以下「本件建物」という。)の所有者である。

(二)  東京三菱銀行(当時の商号・三菱銀行)は、平成三年一二月三〇日、Cに対し二億三〇〇〇万円を貸し渡した。

原告は、Cとの同日付保証委託契約に基づき、Cが東京三菱銀行に対して負担する右貸金債務につき連帯保証するとともに、右連帯保証債務を履行することにより取得すべき求償債権を担保するため、平成四年一〇月一〇日、Cとの間で抵当権設定契約を締結し、平成五年一月二二日、その旨の抵当権設定登記を経由した。(弁論の全趣旨)

(三)  Cは、平成九年三月一日、本件建物を共同住宅の賃貸借等を業とする被告に賃貸し、同月七日、賃借権設定登記を経由した。被告は、右賃貸借契約に基づき、Cに対し、毎月二五日限り二〇〇万円の賃料を支払うべき義務を負っている。(甲三号証)

(四)  被告の代表者であるDは、平成九年三月一九日、Cに対し、五三二〇万円を貸し付け、同日、被告とDは、DのCに対する右貸金債権を被告に譲渡する旨の契約を締結した。Cは、同日、右の債権譲渡を異議なく承諾し、同月二一日付をもって右承諾書に公証人の確定日付を得た。(乙一号証ないし三号証)

そして、同日、Cと被告は、被告が譲り受けた右債権の弁済として毎月一五〇万円ずつ支払うこととし、毎月二五日限り被告がCに支払うべき本件建物の賃料二〇〇万円のうち一五〇万円を対当額で相殺して処理することを約した(したがって、被告はCに対し毎月五〇万円を支払えば足りる。)。(弁論の全趣旨)

(五)  Cが東京三菱銀行に対する貸金債務の履行を遅滞したため、原告は、前記保証債務の履行として、平成九年一〇月二七日、同銀行に対し残元金、既発生利息及び遅延損害金の合計額として一億八五二八万五〇八一円を支払った。

(六)  東京地方裁判所は、平成一〇年三月三一日、抵当権者である原告の物上代位権に基づき、Cの被告に対する本件建物の賃料債権のうち前記求償債権に基づく請求債権額である一億八五二八万五〇八一円に満つるまでの部分を差し押さえる旨の差押命令(以下「本件差押命令」という。)を発し、右命令は、同年四月二日に第三債務者である被告に送達された。

3  当事者の主張

(一)  原告

(1) 原告は、被告に対し、本件差押命令送達後に弁済期の到来した平成一〇年五月分及び六月分の賃料合計四〇〇万円から同年五月一日及び同年六月三日に被告から支払を受けた各五〇万円を五月分の賃料の支払に充当した残額三〇〇万円(五月分残額一〇〇万円、六月分二〇〇万円)及びこれらに対する各弁済期の翌日(五月分につき同年四月二六日、六月分につき同年五月二六日)から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(2) 債務者が差押債権を譲渡し対抗要件を備えた場合においても、抵当権者は自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができるとの判例の法意に照らせば、第三債務者が債務者に対する反対債権を取得してこれと相殺した場合であっても、債権者は、賃料債権に対して物上代位権を行使することができるというべきである。

(二)  被告

原告の主張は争う。

原告指摘の判例理論は相当でなく、これを援用する原告の主張は理由がない。

三  当裁判所の判断

1  前記の事実関係によると、原告の抵当権に基づく物上代位権の目的債権として本件差押命令の効力が及ぶ債権は、Cが被告に対して有する本件建物の賃料債権のうち、平成一〇年四月二五日以降毎月二五日に発生し、かつ、弁済期が到来する二〇〇万円ずつの賃料債権であることが明らかである。

そして、被告は、右差押前に、被告の代表者から取得したCに対する五三二〇万円の貸金債権に基づく毎月一五〇万円ずつの分割金返還請求債権をもって、毎月二五日に、右賃料債権とその対当額において相殺する旨の合意が成立しており、この合意の効力をもって右差押えに対抗することができると主張するに帰するものと解される。

しかし、いかに被告主張の相殺の合意が原告のした差押えの前にされたとしても、右合意に基く相殺の効力が具体的に発生するのは、差押えの効力が生じた後である平成一〇年四月以降毎月二五日の各弁済期なのであるから、本件差押命令による支払停止の効力により、右相殺はその効力を生じるに由ないものというべきである。このように解さなければ、物上代位権の行使を不当に妨げ、抵当権設定登記により公示されている抵当権者の利益を害する結果になることとなり、相当でない。

2  そうすると、被告は、原告に対し、本件差押命令送達後に弁済期の到来した平成一〇年五月分及び六月分の賃料合計四〇〇万円から同年五月一日及び同年六月三日に支払をした各五〇万円を五月分の賃料の支払に充てられた残額の三〇〇万円(五月分残額一〇〇万円、六月分二〇〇万円)及びこれらに対する各弁済期の翌日(五月分につき同年四月二六日、六月分につき同年五月二六日)から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払をする義務がある。

四  よって、原告の請求を正当として認容することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 田中壯太)

<以下省略>

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